2007/11
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柔らかな絆 目次


長くなってしまったので、まとめてお読みになるときにどうぞ。
合わせて下さった方との関連SSもリンクしてあります(敬称略)



【Prologue】 泡のような知覚
【01】 ひそやかな虚ろ
     →鬼頭・菫 『名前
【1.5】然れども意味はなく
      →鬼頭・菫 『夢のなかで誰かになった
【02】 優しい不完全
      →雪白・ハクヤ 前夜『2回目のお留守番は賑やかに
                 深夜『閑話・二回目のお留守番深夜
【03】 ばかものたちめ
【04】 ひとりの男が死んだのさ
【05】 ハンプティ・ダンプティ(前編)
【5.5】閑話休題
【06】 ハンプティ・ダンプティ(後編)
      →鬼頭・菫 『いなくなった
【07】 浮かんでは光る。
      →神風・忍 『小さく揺れる沈みかけの夕日
【08】 影を重ねた、
       →亘理・計都 『Paper cut
        ちなみに関連SS。口紅戦(前)(後)
                 計都君side
                 蜜流ちゃん
                 骸ちゃん         
【09】 NOWHERE
      →流茶野・影郎 『AM3:17 アミーゴ横須賀
【10】 てのひらの闇(前編)
      →玖凪・蜜流 『さいごの果実 (前編)』
【11】 てのひらの闇(後編)
        →玖凪・蜜流 『さいごの果実 (後編))』
         その夜のお話『Beautiful World
       →岩崎・燦然世界『そして彼は魔法使いになれたのか?
【12】 柔らかな絆
         →玖凪・蜜流 『Flavor Of Life
【Epilogue】 NOW HERE    
        →宇気比・真弓 『Ein Spiegel
        →真田・碧 『鈍きを装う狐







追記にて、あとがきと御礼を。


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【Epilogue】NOW HERE



 てのひらに収まるサイズの、小さな丸い鏡。
 見た目よりも重たいのは、青鼠の石にはめ込まれているためだろう。磨り減った側面が経てきた年代を感じさせる。おそらく骨董品だ。
 その丸い鏡面の縁に沿うようにして、ひどく小さな文字が彫り込んであった。
 かすかな凹凸を指でなぞって、江間は目を細める。漢字のようだが日本語ではない。中国語は聞いて覚えた広東語がカタコトで話せるのみ、つまり読み書きはさっぱりだ。
 『影見』と言う品だ、と友人は言った。

 ――――『其は浄玻璃にあらず。鑑なり』

 不思議なことに、鏡のはずの表面は霞がかかったように曇っていてよく見えない。



【12】柔らかな絆



========
TO:玖凪店長
件名:昨日はごめん
========
今日、ちょい早めに
カフェに行ってもい
少し話したいんだ。

========



========
From:玖凪店長
件名:ううん
========
今外で、20分もしたら
カフェに着くから。
それでもよかったら
待ってて。

========





【10】てのひらの闇(前編)



 奇跡のようなバランスで構成されている一方で、人間の感覚というものはひどく曖昧な部分があるという。
 例えば痛覚だ。
 体の何処かに傷があると仮定しよう。痛覚は生命活動への支障を告げるための重要なシグナルだ、当然傷は痛む。(言わずもがなだが、この場合麻酔を使用している場合や、致命傷であっさり死に至る場合は除外する)
 ここで、別の箇所にさらに強い痛みを与えてみる。すると不思議なことに、前者の部位に感じていた傷の痛みは『分からなく』なってしまうそうだ。
 分からなくなったからといって、傷が癒えたわけではない。小さな傷ならば自然に治っていくが、それなりの傷なら的確な処置が必要だ。
 心もまた然り。
 外傷の手当てを怠るがごとく、痛みを痛みで誤魔化して上塗りを重ねていくようなことを続ければ、心も少しずつ本来の形から歪んでいく。


 ―――さて、ここに一人の子供がいる。
 適度に不遇でそこそこに悲惨、言ってはなんだが非常によくある話だ。
 両親との縁の薄さに早々に見切りをつけて思慕の対象を他へと移し、
 不要と判断されるよりも引き金を引くことを選び、
 失うことを恐れて自分のものではない呼び名に返事をする。
 比較し選択し切り捨てて、痛みをなくそうとしてはさらに傷を作り、泥沼へと嵌まりこんだ。
 見ないふりをされた痛みは澱んで凝り、やがて『てのひらのない男』として象徴化する。
 子供はもう、何を失くしたのかわからない。



【09】NOWHERE



 既に夜明けが近い、深夜のアミーゴ横須賀。
 月明かりだけでもさして不自由はしなかった。光に少し対応が遅れる分、自分の目は暗闇が得意だ。薄く浮いた汗をぬぐい、江間は息を付く。

 夜遊びの習慣はなかったが、昼間亘理に容赦なく腹をやられた分が夜になって効いてきた。内部のダメージは外傷よりも治りが遅い気がする。横になっても眠れるどころか、吐き気と鈍痛で呻いて一時間。動いていたほうがマシな気がして起き出した。
 どうせなら一暴れしてこようと、同じアパートの住人のバイクを借りて外へ出た。

 鉄槌で重く風を切る。
 わざと瓦礫を鳴らしながら反対側のフロアへ足を進めれば、足下から水音がした。目を落す。まだ濡れている肉片を踏んで、ぬるりと僅かに靴底が滑った。
 周囲に目を配ると、戦闘の跡が目に付いた。どうやら先客がいたらしい。
 その推測を裏付けるように、奥から明らかに人の声が聞こえた。接触は面倒なので踵を返そうとして―――しかしその声に聞き覚えがある気がして足を止める。
 見れば、声の主はちょうど沸いた最後の一体を打ち倒すところだった。ひらめくマフラーを残像に影が走った。
 見覚えがあった。短髪の。覆面の。背はそう高くない。無駄なく引き締まった体。歩いてくるというその動作だけで柔軟なバネを容易く想起させる鍛えられた筋肉。
 流茶野・影郎。
 同級生だ。交友範囲が広く、あちこちでよく見かける。カフェにもよくふらりと遊びに来ては、皮肉とも揶揄ともつかないことを楽しげに喋っていく。一見淡々とした独特の喋り口や、意外なほどのノリのよさが好きで、会えばつるむ仲だった。
 瓦礫の隙間からのぞく月を見上げれば、既に沈み始めている―――深夜の3時過ぎだ。どうしてこんな時間にという疑問は、今の江間の頭に浮かばない。
 ゆっくり瞬きして見物していると、新たに闇が凝る気配がした。

 うおおおおん うおおおおおおおん

 鬼哭。
 再び大量のリビングデッドが沸いて出る。
 教えこまれたが故の反射で瞬時に数を把握し、少し多いなと思う。
 流茶野は近接戦闘型―――その独特の体術ゆえに、特に単体相手にその能力を発揮するタイプだ。一対多数が苦手なわけでもないだろうが、さすがにあれだけいると面倒だろう。
 鎚の柄を確かめるように軽く撫でて、混じるつもりで歩み寄る。
 声をかけようといつもより重い口を開きかけたところで、流茶野がこちらを見ないまま呟いた。

良いね、考える余裕が無いのって
「…だろ、だからここ好きなんだよねェ」

 心から相づちを打ったのに、振り返った流茶野は驚いた顔をした。話しかけられたと思ったのだが、単純に独り言だったらしい。いぶかしむ響きで確かめるように名前を呼ばれる。エマ?
 なあに。

「どしたの。片付けよーぜ」
 
 鉄槌を片手でくるくると廻して顎で促せば、流茶野は了解したように軽く頷き、表情を苛烈な戦士のそれへと一転させた。





【08】影を重ねた。

 美術室帰りだという蜜琉と別れ、江間は無意識に詰めていた息を静かに抜いた。
 蜜琉はいつも江間をあたたかな光でずぶ濡れにしたが、だからこそ時折自分の薄暗い部分を問答無用で自覚させられる。目を逸らせばいいだけの話なのにどうしても出来ない。
 想いを寄せる一方で、伸ばす手をとどまらせるのは身勝手な憧憬だった。
 きっと違いすぎる。蜜琉はとても眩しい。

 背後から迫る気配に気づいたのはそのときだった。振り向きかけた時には、腕が肩に回っていた。引き寄せられてぎょっとする。

「―――何びびってんだよ、」

 耳元で低く笑われ、聞き覚えのある声に眉根を寄せた。顔を向けると、案の定獣のような金の目が笑っている。精悍な体躯、くすんだピンク色。
 亘理・計都。
 笑ってはいるが何かを探るような目に既視感を覚えた。

「ナニ、」
「お前もっとはしゃぐだろ、いつも。あの人といると」
「はァ? …意味わかんねェ、」
「どうしたんだよ」
「…だからナニが?」
「ふーん」

 やけに絡んでくる亘理に僅かに苛立ち、離せと軽く肩を捩る。常とは違い接触が気に障る。
 敏い相手だ、常ならばこれで察するはずが、逆に指先に力を込められてぎくりとした。苛立ちに似た何かを感じるのは気のせいか。

「…んじゃ、GTでも行くか?」

 一瞬躊躇する。正直気乗りはしなかった。江間にとって亘理は同列で同属、近しい部分を感じるからこそ弱味は見せたくない相手だ。
 断りかけ、それも不自然かと思いなおす。
 だるく応じた。






 一人はあまり多くを言葉で語ろうとせず、
 一人は饒舌だったが大事なことをすぐに取りこぼす。




 
 

【07】 浮かんでは光る、


 あの子は踊る。
 あの人は歌う。
 あいつは潰して、
 オレも潰す。



 さあ おたちあい!


【06】ハンプティ、ダンプティ(後編)


 囲め、囲め。
 フェンスのこちら側と向こう側、意味もなくひかれた境界線。
 菫の忠告を聞き入れることにした江間は、さっさと柵の中へと戻ることにした。いつものように軽く着地しようとして、右足に走った痛みにたたらを踏む。

「…大丈夫?」

 詰めた息が聞こえたのだろう、僅かにこちらに顔を向けた菫が首を傾げた。
 へーき。答えようとしてふと思い直した。…昨日サイコチェーンソーに囲まれてさ。ああ、江間クンなんでか好かれてるよね! 微塵の疑いもなく頷かれて江間は笑う。怪我をしていても不自然ではない環境は喜ばしい。腫れてはいないし蟲は蠢いている、夜には治るだろう。何の問題もない。

「…ところで菫センパイ、何しにきたの?」
「高いところが好きだから!」

 答えになっていなかったが、無性に説得力のある説明ではあった。適当に頷いて、江間はフェンスにもたれる。そういえば蜜琉や茜と共に気球に乗ったときも、高いところが好きだと言っていた気がする。いずれにせよ、菫が能動的に好きだと断言するものは珍しい。

「なんで好きなの、」
「何となく!」
「…菫センパイってさ、結構好きなこと好きなように喋ってるでしょ」
「まあね!」

 明快な断言に思わず笑い、そのままずるずると座り込む。鈍った頭でもさして問題ない、軽いやり取りは気が楽だった。
 遠くのグラウンドから、運動部の掛け声が聞こえてくる。
 どこかに行くつもりもなかったし、菫も特に気にしていないようなので、存外に近い位置で一人と一人はそのまま並んだ。
 鬱陶しければ、勝手に距離を取るだろう。相手任せにして江間は目を閉じる。体が心に引きずられて気だるかったが、元々浮き沈みの激しい自分にとっては珍しいことではなかった。
 じっと待っていればそのうち上がる。
 いつものことだ。








 ハンプティ、ダンプティ、あなたはだあれ。
 落ちて潰れた、あなたはだあれ。




【5.5】 閑話休題

 一人と一人の会話は続く。


「ダウ平均株価のダウってなんだっけ」
「…洗顔料の…、」


 それはダヴだ。




【05】ハンプティ、ダンプティ(前編)


 遠くにさざめく生徒たちの声を聞きながら、浅く眠っては目覚めてを繰り返すうち、随分と時間がたっていたようだ。
 ゴーグル越しに太陽を見上げ、江間はゆるく首を振った。

 誰とも喋る気力がないくせ、何となく人恋しい。
 実に単純でわかりやすい理由から、特別教室棟の屋上で時間を潰していたのだ。キャンパスの屋上と違って人気がないし、下からはたまに教室を使う生徒たちの喧騒が聞こえる。
 最初は内側からフェンスにもたれていたが、そのうち景色を眺めたくなってフェンスの外に出た。座るのに程よいスペースに満足してフェンスに背中を預け、どれだけたっただろうか。

 ギイ。

 後ろで扉が開く音に携帯を取り出すと、すでに放課の時間だった。
 誰か来たようだし、いい加減動こうか。
 ぶらりと膝から下を屋根から放り出すと、後ろから声がかかった。

「――――江間クン?」



【04】 一人の男が死んだのさ。

There was a man.


オレの父親、眞田良将って言うんだけど。
実はオレ、あんまり会った記憶がねェんだ。
そもそも家にいない人だったらしいからね。
会ったら会ったで微妙に気持ち悪そうにされたっていうか、
単純に、子供が好きじゃなかったんだろうね!
ホラ、子供って人間じゃねェだろ。
大人がイメージするほど、笑ってて明るい存在じゃねェっつか。

特にオレなんかさは、その男の血をしっかり受け継いじゃってるわけだから、
純粋に気持ち悪かったんじゃねェかな。
あんまり自分自身のことも、好きじゃなかったんだって。
ああ、全部聞いた話だけどね!
オレはその人のこと知らねェんだ。
うん、だからどこまで本当かなんてわかんねーよ。

まァオレの男親は、オレにとってはその程度の人だったんだけど。
オレの大事な人たちには、すごく愛されてた。

違う、愛されてる。今も。
ああ、ネロなんかは母さんもすごく好きだったみたいだけど…
ずるくねェ? 死んでる癖にね!

…ン、分かってるよ、本当は。
本当はさ、
…あー…




喉と、唇が渇いた。




【03】ばかものたちめ


 かつん、かちゃ、かつん、かちゃ。





 彼女が歩くたび、不自然な金具の音が鳴った。
 右靴の中に、生身の足はない。足らしく見せるよりもより機能を追及した、精巧な義足が入っている。江間の父親が死んだ事故で、彼女もまたふくらはぎから下を失った。
 通常片足を失うと、使われない片足は棒のように細っていく。食い止めるためには相当の訓練とトレーニングが必要で、そしてどんなに努力しても、やはり維持は難しいという。
 片足を失って10年。彼女は第一線こそ退いたが、今なお義足で高い身体能力を維持し続けている。
 氷の貴婦人と揶揄されるその冷たい容貌の下、決して口外しない淡々とした努力と地道な積み重ねを江間は知っている。ずっと見ていたから。

 かつん、かちゃ。
 かつん、かちゃ。

 ―――ずいぶん久しぶりに聞く音だ。
 2歩後ろを歩く江間は、ぼんやりと目を伏せた。






そして王子様と隣の国のお姫さまは、
末永く幸せに暮らしましたとさ。
Happily ever after!




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