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飴玉ふたつ


(貰った飴玉をもごもご舐めている)

ン?
いや、帰り道にさ、店長に飴もらったんだけどさ!
この種類って前も貰ったなーと思ってツナギのポッケ探したら二つ出てきて、

うん、それで思い出したんだけど。

まだ碧落一回抜ける前かな?
GTで菫センパイに会ったんだよねェ。






「あ、菫センパイ!」

 久々に単騎で行こうかと軽い足取りで向かった先、横須賀アミーゴの前で見慣れた姿を見つけた。長身のシルエット。痩身で手足がひょろ長いが貧相な感じはしない。
 出先で思いがけず知り合いに会えるのは嬉しい。単純に嬉しくなって声をかけた。

「……だよねぇ?」

 半疑問系を付けたのは、相手が紙袋を被っていなかったからだ。
 菫は江間の予想よりも1テンポ遅れてこちらを向く。
 端正な顔だ。虚ろではないのに、見るべきものはここにはないというような不思議な目をしている。

「あれ、今出た所?」
「――うん、そう!」
「そっか、少し休んでからでいいからさ、一緒にもう一回りしねェ? お面出たらあげる!」
「構わないよ! でもお面はもう要らないから自分で付けてっ!」

 菫の戦い方は嫌いではない。淡々としていて熱がないくせ、動き自体は意外に荒削りだ。何だかんだでそろそろクセも掴めてきたので、動く時に迷う必要がないのもいい。要は楽倒れる寸前までフォローがなかったり壁にプレスされたりもするが、そのあたりは江間は気にしていない。
 ふと菫が辺りを見渡したのを見て、江間も倣って空を見上げた。
 冬場は昼が短い。あっという間に日が落ちる。
 さっきまで白々としていた冬の太陽は、茜色に染まりかけていた。

「暗くなるの早えーよね、最近」
「確かにねぇ」
「でも何かさ、こういう冬のキーンとした空気も俺、嫌いじゃねェんだよね。肌を刺す感じっていうかさァ?」
「ああ、そうかな、夏より好きって人もいるだろうね!」

 冬は寒くて生き辛くなるので苦手だ。
 今年はきっと違う、と江間は一人笑う。

「夏場とか神風すっごいグッタリしてたよねェ! やっぱ暑さ寒さに対する耐久力って個人差が大きいっつーかさ、」
「そうだね」

 相槌というよりは会話そのものを打ち切るようなそれに思わず口を閉じた。
 勢い、ついつい喋りすぎたようだ。普段と変わらない調子でいたのだが、それが癇に障る時もあるだろう。
 素直に反省した矢先のこと、菫が突然喋り始めた。

「だよね、寒暖に対する個人差はさ、体温調節の機能というか新陳代謝とかも関わってるんだろうけどさ結局はアリランス・クルーの水際の羊の緑青における生体反応の氷射が砂糖に西側の名矢が懸からずもメルガの、」

 至って普通に聞いていたら途中で意味不明の単語が混じりはじめ、まるで坂を転がり始めたボールがどんどん速度を増すように早くなり、そうしてそれは唐突に途切れた。
ぷつん。
 静かになる。
何事かと菫を凝視していると、菫はふと江間の視線に気づいてゆっくりと瞬きをし、次いで丁寧に微笑んだ。

「……失礼、」

 ……『失礼』?
 新手の嫌がらせだろうかと思い、次いでどうして嫌がらせかと思ったのだろうと不思議になった。
 だって笑顔なのに。しかもいつもの薄笑いではない、むしろ人懐っこそうに笑いかけられたのに、何を嫌だと思ったのか。
 もしかして適当にあしらわれ続けることに慣れてしまったのだろうかと思わず自分を振り返りかけた子供に、菫は言葉を重ねる。

「――昨晩、少々眠れなかったもので」
 
 穏やかな笑顔で、それはもう上手な笑顔で言う。
 嫌だ。
 ほんの一瞬、しかし確実に沸き起こった嫌悪の感情に自分で動揺した。
 ―――菫に対して? 
 違う。では何だ。
 知っている、これはとてもよく知っているものへの感情だ。
 自分を通して誰かを見ている。
 視界の端で形をとった自分の幻影に、消えろ、と無理やり意識を逸らした。落ち着け、どうして自分が動揺する。
 それで江間は、今まで菫が彼なりにきっちり認識して相手をしていてくれていたことに気がついた。遠かったけれど。今も遠いけれど。

「……そォ」

 眠くてテンパっているというのなら、それもそうかもしれない。
 首にかけられたゴーグルが、夕陽を鈍く反射した。

「ていうかさ、菫センパイ」
「……うん?」

 一瞬の間をおいてこちらを見た菫の表情は薄く笑っているいつものそれで、それを見た瞬間先ほどの激しい違和感は霧散した。
 変だなオレ今何があんなに気持ち悪かったんだろう。
 うっすらと残る妙な感覚は、しかし掴みきれないうちに消えてしまった。
 ただ江間は拗ねたように口を尖らせる。

「ンな睡眠不足だったら帰って寝た方がいいって。GTは逃げねェだろ?」
「……ああ、それもそうだねぇ!」

 どうもさっきから反応が鈍い。本当に眠いのだろうか。無理をするタイプではないのに、おかしなことだ。眠いならそれこそ、今日は眠いから菫ちゃん帰るね!とさっさと帰りそうなものなのに。自覚がなかったとでもいうのだろうか。
 菫は軽く肩を疎めて笑う。

「ごめんね、じゃあ今日はやっぱり戻る!」

 そうしたほうがいい、という意味を込めて頷いた。
 一緒に遊べないのは(江間のGTにおける感覚はその程度だ。潰しても壊しても元通り、悲鳴は何度凝らせようとそこにまた戻ってくる!)もともと単騎で突っ込もうかと思って来たのだし、それこそGTは逃げない。
 すれ違い際に嗜める。

「……ちゃんと寝なきゃダメだぜ?」
「どうも!」

 菫が無造作に江間の手に何か落とし込む。咄嗟に取り落としそうになって掴みなおしたそれは、飴玉だった。
 透明なフィルム。菫色の丸い飴玉。

「センパイ、これ、」
「ポケットに入ってたから」

 笑いながらそう言う。笑っている。
 食べ物を貰ったことよりもそっちのほうが気になって江間は眉根を寄せた。

「何か? 賞味期限切れる程に前のじゃないはずだよ!」
「ああ、や、ならいい……うん、いいんだけどさァ」
「何も仕込んでないし!」
「いやそこ念押されると余計怪しい……ッ!」

 気にしてなかったのに気になってくるではないかと、指で摘んでじっと睨んでいると、菫は軽く手を振った。

「じゃあまた、結社か何処かで!」

 ひらりと背を向けて去っていく後ろ姿を江間はしばし眺めた。
 体調が悪いから機嫌が悪かったんだろうか。いつもやばい薬をキメたかのようにハイなところはあるけれど、心ここにあらずといった様子を見たのは初めてだ。
 とりあえず今は飴を転がす気分ではない。廻った後で食べようとポケットにしまおうとして、ふと中に入っていたものを取り出した。



「奇遇…だねェ?」



 てのひらには、同じ飴が2つ。




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