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誰そ彼(前)


血が出てンなら止めるだろ。
毒が体に溜まってンなら、吐きゃマシになる。
抉れて足りなくなったら、その分は何かで補って。
小さい傷なら気にしすぎる方が駄目だけど、
時間だけに任せてたら悪化する一方、って場合もあるし。
最初は平気な気がしても、
後からじわじわくる性質悪ィのもあるよねェ。

要はさ、適切な処置と時間なんだろーね。
ああ、傷が治るのに必要なものの話だけども!
まとめてみると意外と簡単でさ、
でも何が必要でどこまでが適度かなんて、どうすりゃ分かるんだろって。

昔、ネロが言ってたんだ。
人が持って生まれた才能の中で一番すばらしーものは、
他人の痛みを理解しないことだって。
最初に聞いた時は正直よくわかんなかったけど、今は。






今ならその意味が。










驚いた、こんな顔立ちをしていたのか。
その陰鬱な表情を見て、心配より先に浮かんだのは驚嘆だった。
江間が知っている雪白ハクヤは、表情がくるくると変わる。
賑やかで小生意気でよく笑う。
目が宝石のようにキラキラ光って、口より何より雄弁にものを語る。

驚いた、あれは全部、内側から出ていたものだったのか。
あの、暖かく眩しい、強く、細く光る、
切実な真っ白い炎は。



江間の部屋に着いた頃には、夜は既に完全な静寂の領域に達していた。音に注意して鍵を開け、ぶつかったダンボールを無造作に足で脇にやる。
問答無用で連れ帰ったハクヤを適当に放り込むと、一つ下の友人はもそもそと足を引きずって壁際まで移動した。
片足を投げ出し、無事なほうの足を抱える姿は常より幼い。
救急箱を探しながらその姿を横目で流し見て、江間はさて、と息を吐いた。

「まずは足だよねェ。ほら雪白足出す!」
「…見た目ほど酷くねーし」
「出す」

どうにもさっきからごねるので、故意に落とした声を出す。
しぶしぶという感じで上げられた裾から現れた足はひどく腫れていて、江間は内心舌を打った。
赤黒く腫れあがり、既に足首がほとんどない。
深夜の往来で拾ったので応急処置もできないまま連れて帰ったが、人目など気にせずにすぐにでも蟲を使えば良かったと思いながら手を翳した。手のひらから微かに暖かな熱が生まれ、白い光がハクヤの足首へと集束して凝る。

なんでちゃんと手当てをしないのか、と江間は内心憤る。
怪我は大嫌いだ、戦えない逃げられない動けない。
この先は地獄だわれわれは生きて帰りたい。
ご心配なく天国への行き方は知ってます。
さようなら。さようならさようならさようなら。


「…………、」

薄暗い思い出は、寄せられたハクヤの眉が少し緩んだことで霧散した。
江間の蟲は強くない。蟲の代わりに、攻撃に特化した能力を得ようかと思うこともあるが、やはり他者を癒す力があるのは捨てがたかった。
幾分腫れの引いた足首に息をつき、加減しながら軽く間接を握ってみる。
折れてはいない。完治にはほど遠いが、とりあえずは大丈夫だろう。
大人しくされるがままだったハクヤが、目を合わせないままぼそりと呟いた。

「…靴は」

靴を履いてどこに行くつもりだと、江間は元々吊った眉をさらに跳ね上げる。

「履いたらダメに決まってンでしょ」
「…帰りどうすんだよ」

おや、と肩の力が抜けた。
帰るという選択肢が増えたのなら僥倖だ。

「送ってったげるよ」
「……、忍に」
「バーカ。変に気ィまわした方が余計心配するよ、神風は!」

あくまでも軽く返すと、ハクヤは口を噤んで黙ってしまった。何か食わそうかと台所へ向かう背中に、分かった、と随分遅れた声が届く。

――――神風と喧嘩でもしたのかな。

単純にそう考える。
いくら付き合いが長かろうと仲良しだろうと他人同士、意見がいき違うことくらいあるだろう。神風へ向ける愛情が、誰と比べても特別深いのは見ていれば分かる。
しかし同時に、それにしては様子がおかしいとも思う。
明らかに今の様子は、意見や主張の食い違いでふてくされているだとか、何かに腹を立てているだとか、対等な者同士の喧嘩による結果ではない気がするのだ。

心なしやつれた顔、
光の無い、けれど終始彷徨う目。
明らかに手当てを必要としているのに、人の手を怖がるように拒む様。

神風が原因で、こんな風になるだろうか。
人の痛みにあれほど敏感な二人が、例えこっぴどく喧嘩をしたにせよ、一方がここまでの状態になるまで止まらないなんてことがあるだろうか?
確認のように浮かべた疑問は、すぐにあり得ない、と結論がつく。





だって、今江間の後ろにいるこれは、怯えた子供だ。
それも、とても小さな。

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