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掴めるものは何もなくとも


アザレア国際交流センター、B棟。



足音を立てないようにして滑り込んだ棟の中は、
不思議なぐらい死人の臭いが薄かった。
浄化されたばかりの気配、再び闇が凝る前。
誰かが通った後だ。
―――誰が?

闇が濃くなるから明かりはつけない。
江間の視力では細かな判別は無理だが、わずかな光を拾って動くのは得意だ。
小部屋へ入り、地下へ続く虚ろの側に膝をついた。
目を凝らしながら耳をすますが、地下からは何も聞こえない。

能力者がいる。それは間違いない。
来る途中膨らんでいた嫌な予感は、ここへ来て確信に近づく。
…でも、どこに?
下か上か迷った時に、遠くで瓦礫の崩れる音がした。上。
階段を駆け上がり、転がり込むようにして最上階へ飛び込む。
ボス部屋は白い光に溢れていて、光に弱い目が一瞬眩んだ。

拡大された瞳孔で、
壁に縋るようにしてうずくまる人影を見た瞬間、
江間の意識は一瞬吹っ飛んだ。



バレットレイン改の弾幕で、ゴーストたちの足を止める。
精度は低いが、気勢を削ぐには十分だ。
既に随分と弱っていたのか一体が消える。
その様を目の端で捕らえながら、江間はす、と深く息を吸い込むと呼吸を止めた。
格上の相手だ。短時間で殲滅する。

射撃が邪魔な女ゾンビへと一瞬で距離を詰め、腰を砕く。
間を置かず横凪ぎにハンマーをふるい、ゾンビの頭を吹き飛ばした。
勢いに任せて体を回転させてもう一体に回し蹴りをくらわせ、
よろめいた隙に自らも体勢を整え、再び腰骨を砕く。
そのまま、てこの原理を利用して後ろに迫った鎧讐少女の顎を跳ね上げ、剣を叩き折った。

溜めた空気を短く吐き出し、吸わずにまた息を詰める。
目前に迫る青い影。邪魔だ。
江間は瞬きを止めた目で対峙する。

今すぐ死に直せ。

唇だけ動かし、ブルーナイトを叩き潰した。






ガイン。

ハンマーを地面に打ち立てたその残響を最後に、広いフロアは静まり返る。
ゴーストを殲滅したことを確認し、
江間は肺腑に留めていた息を静かに吐き出した。

壁によりかかるようにして、蜜琉はこちらを見上げていた。
髪は乱れ、あちこちすりむいてはいるが、血の臭いは薄い。酷い出血はないようだ。足をかばうように座り込んでいる。立てないのだろうか。
しかし呼吸は多少浅くなっている程度。命に別状はなさそうだ―――

ゆっくりと血が冷え、視界は白んだ。
怒りの色に。

「…何してンの、アンタ」

蜜琉は答えない。江間を見て、ひどく驚いた顔をしている。
無防備な顔はいっそあどけないほどで、苛立ちが募った。
何をしている、この人は、本当に。

「こんな時間に、こんなトコで、一人で!! 何やってンだよ!」

フロアに飛び込んだ際の蜜琉が脳裏に浮かぶ。
壁際でうずくまる姿、
すでに戦意を―――がむしゃらに生き残る気勢を喪失した姿。
向こうで見たばかりの光景とダブった。
死にたいわけでもないだろうに!!

「オレ言ったよなァ、危ない真似すんなって! 
 GT行くときだって、誰か連れてけって、一人で行くなって、何回も!!」

どんどん荒くなっていく自分の声を聞いて、江間は一瞬奥歯をかみ合わせた。
自制がきかない。

「アンタが強いのは知ってるさ、
 でも殺し合いに絶対なんてねェ、知ってんだろ!!
 何だかんだで数が多いほうが強ェ、
 舐めた奴からどんどん死んでくんだ、
 取り返しの付かねェことは本当に取り返しがつかねェんだよ、
 
 ―――なのにアンタ何してんの、
 黙ってねェで答えろよ、なあ!」

呆気にとられた顔をしていた蜜琉の唇が、わずかに動いた。

「わ、」

掠れた声に、思わず耳をすます。

「…わらえなかったから、上手に笑えなかったから」

憤りのあまり目の前が白んだ。
手をあげそうになるのを寸前で堪え、力の限り鎚を瓦礫に打ち込んだ。

「っざけんな!!」

派手な音をたてて岩が砕け、粉塵が舞う。

「笑えないって、ンだよそれ!!
 理由になってねェ、アンタのコレは自殺行為!!
 マジ笑えねェ、冗談じゃねェよ、ふざッけんなよ!」
「だ、だって!」

呆然としていた顔に、ようやく少し光が戻る。
しかしいつも通りのそれではない。
どこか歪でどこか必死な、頑な表情だ。

「笑えなかったら心配するじゃない! みんな、心配するじゃない! そんなの駄目だもの、あたし、ちゃんとしてなきゃ、笑ってなきゃ駄目なんだもの!!」

これに虚を突かれたのは江間のほうだった。

「…そりゃ、心配するだろうさ皆!! つーかソレ全無視で一人で死にかけるほうが、よっぽど胸糞悪イだろうが!」
「だって、あ、あたし、一人でも平気じゃなきゃ駄目なんだもの!」
「―――は!?」

江間は面食らう。
その論理で、何故一人で危険な目に逢いに来るのか。

「ちょ…ちょっと待って。
 …つーかそんな、一人で平気じゃなきゃ駄目って、…なんで?」
「背中を、守る人がいないから。それなら、一人で強くならなきゃだめでしょう?」

分かりやすく理系の思考を持つ江間は混乱した。
さっぱり筋が通らない。
しかしそのせいで、却って怒りが抜ける。
―――『女性は螺旋だ』
ああネロ、アンタの言うことはいつでも正しい。
吐き出したため息に、かすかな微苦笑が混じった。

「うん。よし。…わーった。一回整理しよ」

正直何もかも分からないが、
蜜琉もわけが分からなくなっていることだけは分かった。
この状態、おそらく理詰めでは通じまい。

「えっとさ、店長は、今多分しんどいんだと思うんだけど。
 何でそうなってるのか、自分で理由分かる?」

蜜琉はうろうろと視線を揺らした後、うつむいた。

「…守るって、言ってくれたの」

ぽろりとした呟きに、不謹慎にも江間は安堵する。
向き合ってくれるなら―――例えそれが自分でなくても、
話してくれるのならば、いくらでも手を伸ばせる。

「嬉しくて、でも・・・背中、守ってくれる人いなくなって。
 あたしが、手放したのにそれじゃだめじゃないって。」

何も言わないまま、ゆっくり瞬きをする。
誰のことを言っているかは大体検討がついた。
あの無骨で暖かそうな、金色の人。
―――多分、そういうことなのだろう。

「誰もいないなら、じゃあ自分で守るしか、ないでしょう?
 一人で、独りで強くなれば、平気になれば!!
 そしたら、ちゃんと笑えるじゃない・・・」

ぎくしゃくと、蜜琉の唇が歪んだ。
いびつなそれは、笑みのつもりなのだろうか。
どうして誰もいないなんて思うんだろうと江間は思う。
いつだって、周りにあんなに暖かい人たちがいる蜜琉が。

「…それさァ、寂しいんだよ」

自分で話しながら納得する。
寂しくて、一時的に心が閉じているのだ。

「てゆうかさ! 平気じゃないじゃん全然。今。現に! 
 平気じゃないって認めちゃったほうがさ、楽ちんだとオレは思うわけでッ!」

一歩距離を詰め、しゃがみこんだまま立てない蜜琉の前に、自らもぺたりとしゃがみこむ。
軽く覗き込むと、頼りなく揺れる目があった。
いつもの蜜琉とは明らかに違う、まるで幼い子供のような表情。
知らない顔、知らない人のようだ。それでも蜜琉だ。
強くて弱くてかわいい人。


「泣きそうな顔してさー…ボロボロじゃん」

一瞬息を呑んだ蜜琉の表情が、くしゃりと歪んだ。
みるみるうちにその双眸に涙が膨れ上がり、頬を伝い落ちる。
しがみつかれ、簡単に納まった細い肩に江間は息を止めた。
嗚咽で震える背中をあやすように叩こうとして、自分の手が目に入った。
銃の解体で指を挟んだ時についた傷が目に入り、
瞬時に先日の光景全てがフラッシュバックして、手が止まる。

――――おまえは なにも つかめない。

爪の跡がつくほどきつく握り締める。
逡巡の後、戦友にするように片腕でごく軽く抱いた。
手の甲で背中をぽんぽんと叩く。

顔が見えなくて良かった。
きっと今の自分は死ぬほど情けない顔をしている。




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