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亘理と一戦かましました:後編



 ナイフ代わりといっても、所詮は化粧品。
 つややかな表面にグリップがあるはずはなく、刃で相手の刃を受けることも不可能。結果的に両者の動きは自然と、互いの利き腕を気にしながらの肉弾戦に近い様相となった。


 しゅ、と空気を切る音が耳元で鳴る。

 正面からの正攻法は難なくかわされた。空ぶった腕をごつい指に掴まれる。思いきり引きずられかけ、咄嗟に肘を立てて打ち込んだ。亘理は腕を解放しないまま、体の向きを変えるだけで避けようとするので、肩ごと勢いよくぶつかった。倒れこむように二人して後ろに転げ、腕を取り返して即座に離れる。
 飛び起きれば、ちょうど相手も体を起こしたところ。
 ゆっくりとした動作、余裕のある笑みは未だその口元に。けれど段々と雰囲気が変わってくる。戦闘の時に垣間見える目の光、穏やかな凪のその向こうに、ちらりと冷たい―――あるいはひどく熱い、炎が揺らめいては消える。
 まだそういう顔してるほうが好みだ、と江間は思う。

「イイ顔ッ、」
「そっちこそ」

 普段扱う得物のためか、亘理の動きは腰が据わっていて隙がない。そして動くときは迅速だ。一旦立て直してしまえば仕掛けにくい。 完全に体勢を立てなおす前に、再び距離をつめた。
 亘理の肩が動く。右。
 しかし次の瞬間、左から踏み込まれて飛び退る――フェイント。
 間に合わずに腕が残り、二の腕の外側に赤い線が走った。
 目玉だけ動かしてそれを追う江間に、亘理がうっすら笑う。

「にゃろッ…」

 捩った体の勢いを利用して、そのまま廻し蹴りを放つ。
 亘理は受けることはせずに後ろに下がり、距離をとった。フェイントを避けたことが少々意外だったのか、高い音で口笛を鳴らす。

「…小ざかしい、って言われねェ?」
「褒め言葉だろ? それ」

 は、と息をついてゴーグルをむしりとる。多すぎる光の量に一瞬目が痛むが、狭い視界で対応できる相手ではない。
 否。――――勿体無い。
 抑えきれない笑みに肩が揺れた。笑い出す。

「ごめん、すっげ、楽しい」
「オレもだぜっ…」

 次第に軽口も減り、辺りには風を切る音と足下で瓦礫の鳴る音、そして時折鈍い打撃音だけが響く。
 勝負がつかないのではなく、わざと長引かせてお互い遊んでいるのだ。その様は言うならば、獣の仔が噛みあって遊ぶのに近い。
 手の甲にしゅ、と摩擦の感触。赤い線が走る。
 亘理の体にも同様に赤い線が走るが、いずれも体の外側だ。

 リーチが長い分、ともすれば動きが大振りになる鎚使いの江間よりも、日本刀使いの亘理は間合いを計るのが上手い。紙一重で見切り、わずかな動きで避けて反撃に出る。
 付かず離れず距離をつめ、踏み込んだら一撃で仕留めるその距離間は、薄皮一枚を見通させない、彼の性格をそのまま表しているようにも思えたが―――

 ―――上手いって、自分でも、思うだろ、なあ。

 そろそろこちらの間合いも読まれてきた頃。
 だから仕掛ける。
 切り込み、避けられ、反撃の腕が振るわれる前に、踵に力を入れて体を回転させる。一瞬自分の背中で亘理の視界を遮ったその隙に、右手から左手へ。
 ひらめくように手首を返し、口紅を持ち替えた。

 つまりリーチが肩幅の分伸び、
 指先が急所へと届く速度もまた、外回りから内回りになる分だけ素早くなり―――

「―――――ッ」

 咄嗟に体を仰け反らせた亘理の喉に、横一文字に赤い線が走った。

「……、勝ちィ」

 詰めていた息を一気に吐き出し、肩を弾ませながら江間が笑った。
 同じく息をついた亘理も、苦笑と共に両手を軽く上げる。

「こうさん」
「ウィナーーーァ、っ、はー、…疲れたー!」

 口紅を放り出し、指先についた赤を軽く舐めとった。シフトチェンジなど今まで試す機会がなかったが、訓練しとくに越したことはないと改めて実感する。
 自分では見えない赤い線を確かめるように、首筋に触れている亘理に向かってニヤニヤする。

「そのまま帰ったらー? チジョウノモツレだと思われるに一票ッ」
「痴話喧嘩って? 相手が、ちょっとなぁ…、―――ところで江間」
「はい?」

 何か面白いことをこっそり打ち明けるような表情で不意に近寄ってきたと思ったら、首に腕を引っ掛けて引き寄せられた。力を抜いていた体はあっさりたたらを踏んで引きずられる。
 嫌がって暴れる江間に構わず、亘理は耳元に囁いた。

「俺の肩越しに後ろ見てみろ」
「…はァ?」

 江間は思いっきり嫌そうな顔のまま、それでも言われるがままに亘理の肩越しに後ろに目をやり、―――瞠目した。

「うッわ、何でいンの!!」

 瓦礫に腰掛けていたのは、双方にとって見慣れた面子。
 玖凪・蜜流、
 吊下・骸、
 そして鬼頭・菫。
 すっかり見物人の体でこちらを眺めている。
 江間の視線に気づいた骸が笑顔で小さな手をぱちぱちとうち、蜜流もまたにっこりと微笑んで手を振ってくる。菫はよくわからない。
 恐らく三人で来たのだろうが、いずれにせ今しがた来たという様子ではない。

 面白がる亘理の表情を見るに、気づいていたのだろう、この男は。
 江間はぐたりと力を抜いて、肩にもたれかかった。

「―――ソツがなくて嫌な男だね、」
「そりゃどうも」



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