2017/10
 12345678910111213141516171819202122232425262728293031 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【04】 一人の男が死んだのさ。

There was a man.


オレの父親、眞田良将って言うんだけど。
実はオレ、あんまり会った記憶がねェんだ。
そもそも家にいない人だったらしいからね。
会ったら会ったで微妙に気持ち悪そうにされたっていうか、
単純に、子供が好きじゃなかったんだろうね!
ホラ、子供って人間じゃねェだろ。
大人がイメージするほど、笑ってて明るい存在じゃねェっつか。

特にオレなんかさは、その男の血をしっかり受け継いじゃってるわけだから、
純粋に気持ち悪かったんじゃねェかな。
あんまり自分自身のことも、好きじゃなかったんだって。
ああ、全部聞いた話だけどね!
オレはその人のこと知らねェんだ。
うん、だからどこまで本当かなんてわかんねーよ。

まァオレの男親は、オレにとってはその程度の人だったんだけど。
オレの大事な人たちには、すごく愛されてた。

違う、愛されてる。今も。
ああ、ネロなんかは母さんもすごく好きだったみたいだけど…
ずるくねェ? 死んでる癖にね!

…ン、分かってるよ、本当は。
本当はさ、
…あー…




喉と、唇が渇いた。







 自動販売機でスポーツドリンクのボタンを押した。がごん、がごん。恐ろしく大きな音を響かせて落ちてきたそれに眉を顰める。
 夏の暑さも既に遠く、冬が近い夜明けの空気は冷たい。

「…あふ…」

 プラスチックのフタを捻りながら、江間は小さく欠伸をした。建物の壁によりかかってしばらく目を閉じる。間違いなく貧血だ。
 白燐奏甲は優秀だったが、流れ出た血はどうしようもない。打ち止めになるまで使ったので、今は目元に黒ずんだ痣と、右足が痛むのみ。うっかり変な感じに踏まれたので嫌な音がしたのだが、体の中で蟲がうごめく感触はするので、そのうち治るだろう。
 一口目で口の中を濯いで吐き出して、残りを一気に煽る。

   お前など、ちっとも似ていない。
   お前なんて。
   どうして、お前が。


 茫漠の瞳で、彼女は何度も呟いた。

   本当は、お前と一緒に死にたかった。
   あの時もう少し近くにいたなら、
   あの爆弾が、あと少し大きければ、
   あの時一緒に死んでしまえたらよかったのだ。
   ――――置いていかないでくれ。



 自分への憎悪と他者への愛情を、同時に注ぎ込まれるのは辛い。自分の立場を思い知るからだ。
 それでも何とか受け入れようとしたら自分が歪み、歪みはさらに彼女の歪みを増長させ、やがて引き返せなくなった。

   ヨシタダ。

 違うと言い続けた声はいつしか弱く掠れ、やがて他人の名前と知りながら返事をするようになった。
 虚しさと諦めが半分。もう半分は、浅ましさが原因だ。―――子供はそれまで、誰にもそんな優しい声で、名前を呼ばれたことがなかったので。
 自分に向けられた声ではないと知りながら、手を伸ばした結果がコレだ。
 全く持って、救いようがない。
 可笑しくて悲しい。



 
 ふと目を開けると、道路の向こうに誰かの影を見た。
 濡れた口元を手の甲で拭いながら、感情の起伏がおざなりになった目でそれを見る。
 誰とも付かないそれ。誰でもあるようなその姿。

 わたしのてのひらを、しりませんか?

 江間はうっすらと微笑む。

 お前が本当に失くしたのは、なんだ?


スポンサーサイト

 | ホーム | 

プロフィール

エマ

Author:エマ

最近のトラックバック

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。