2017/08
 12345678910111213141516171819202122232425262728293031 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【05】ハンプティ、ダンプティ(前編)


 遠くにさざめく生徒たちの声を聞きながら、浅く眠っては目覚めてを繰り返すうち、随分と時間がたっていたようだ。
 ゴーグル越しに太陽を見上げ、江間はゆるく首を振った。

 誰とも喋る気力がないくせ、何となく人恋しい。
 実に単純でわかりやすい理由から、特別教室棟の屋上で時間を潰していたのだ。キャンパスの屋上と違って人気がないし、下からはたまに教室を使う生徒たちの喧騒が聞こえる。
 最初は内側からフェンスにもたれていたが、そのうち景色を眺めたくなってフェンスの外に出た。座るのに程よいスペースに満足してフェンスに背中を預け、どれだけたっただろうか。

 ギイ。

 後ろで扉が開く音に携帯を取り出すと、すでに放課の時間だった。
 誰か来たようだし、いい加減動こうか。
 ぶらりと膝から下を屋根から放り出すと、後ろから声がかかった。

「――――江間クン?」








 聞きなれた声に振り向こうとして、存外に体が冷えていたことに気がつく。そういえば、風が随分冷えてきた。うっかり落ちないように柵を掴んで振り返ると、見慣れた姿がこちらを見ていた。
 長身痩躯に紙袋、既に大人の線を帯びた首には首吊りロープがかかっている。二つ上の、蟲使いの、彼岸の気配がする人。鬼頭・菫。
 よく会うなあ。違う、ただ自分が会いにいってただけ。
 ぼんやり考えていて返事を忘れた。

「落ちたら潰れて死んじゃうよ」

 物騒な台詞に意識が戻る。落ちないよ、と軽く返そうとして、ふと今何に意識をとられたのだろうと気になった。どこだ。
 落ちたら、死ぬ、違う。
 落ちたら、潰れて?

「…潰れて、」
「頭が潰れちゃったら、蟲でも追いつかないからねぇ」

 潰れて。
 江間は瞬いた。短い期間に2回繰り返された単語。生々しい台詞回しは、普段の菫らしくない気がする。本人も意識してないレベルでなにかあるような気配を感じたが、それが何かなのかは分からない。
 立ち上がり、外側からフェンスにもたれる。
 近づいてきた菫は、小首を傾げてもう一度危ないよ、と言った。他者の行動を強制しない菫らしかった。
 危ないよ、と言う。
 止めろ、とは言わない。
 徹底した個人主義なのか、他者に何も期待していないのか。あるいはそのどちらもか、よく分からない。この人は遠いようで近いようで、一緒にいるととても寂しくて好ましい。常に比べて大分感情の機微がおざなりになった瞳で、江間はそれでも笑った。
 落ちて、潰れて、死ぬ。
 …何が?

「見たことあるみたいに言うね」
「見たことあるからねぇ」

 明日晴れるかな、出かけたいんだけど。
 ああ、晴れるんじゃないかな。
 何でもない話をする時と同じように、菫は軽く肯定した。今日は紙袋を被っているので表情はわからない。江間は曖昧に頷いて空に目をやった。

 死に続けていく細胞。飢えたゴースト。口に入る食べ物。
 考えてみればみんな死体だ。
 ならばきっと、さして気にすることでも、ないのだろう。




スポンサーサイト

 | ホーム | 

プロフィール

エマ

Author:エマ

最近のトラックバック

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。