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【07】 浮かんでは光る、


 あの子は踊る。
 あの人は歌う。
 あいつは潰して、
 オレも潰す。



 さあ おたちあい!




 鮮やかな色に染め上げられた着物がひらめいた。

「GT同行ありがとう良将先輩っ!」

 バレットレインで一掃してもらえるととても助かる、と忍に微笑みかけられ、江間は笑い返す。

「こっちも同行ありがとなー! ホント、神風は射撃の鬼だねェ」

 茶化し気味の褒め言葉は、しかし決して冗談ではない。実際遠くから一撃で着実に仕留めていく姿は壮絶だ。普段のたおやかな風貌を一転させて戦う姿を見るたび、江間は実は一番雄雄しいのは忍なのではないかといつもこっそり考えている。
 風は冷たいが空はすかんと晴れた夕暮れだった。したたり落ちそうなほど夕日は赤く、江間はゴーグル越しにそれを眺める。
 ハクヤ・忍・蜜琉の4人で出かけた、ラスト・オブ・ザ・アミーゴからの帰途の途中。蜜琉と別れ、次の交差点で江間も曲がる。
 最近すぐに暗くなるよねェ。そうだな、少し寂しいな。まーな、秋の日はツルベオトシって言うからな! ツルベって何? …俺も見たことねーけど。
 適当な会話を交わしながら歩く途中、改めて礼を述べる忍の律儀さは嫌いではなかった。

「今回もなかなか戦い甲斐があったねぇ! ここはリリスも他の所みてぇに他種類いねぇし」

 アミーゴが好きなのは本当だ。加えて、この面子は前衛も後衛もバランスがとれていて、敵が強くてもまず遅れはとらないので心強いのも本当。
 ただ、アサルトメイデンはあまり好きではない。妙に訓練めいた動きや砂地色の迷彩服は、あちらを思い出す。
 けれどゾンビがたくさんいるから好きだ。
 数が多いから好きだ。
 作業が多いと何も考えなくて済むから好きだ。
 屍人狩りを本業とする江間のゴーストに対する認識は、『仕事』―――それだけでしかない。この学園で生活するための義務。私怨はなく、ゆえにそこに怒りや悲しみや迷いはなく、ただそれはそれ、潰すのが仕事だ。
 誇りの何もなくひたすら潰す、一切合財を無に返す。
 さらに言うなら、ゾンビは腐っているほうが好ましい。何も感じなくてすむからだ。
 割り切る一方でどうしても形に引きずられる子供は、そう思ってうっそりと微笑んだ。

「……、……?」

 穏やかに微笑んで頷いていた忍の表情に、ふと訝しげな色が浮かんだ。
 それを浮かばせたのは自分だと気づく前に、忍の繊手が目の前に翳されて硬直した。驚いて振り払うよりも先に、これは忍だという意識が働いた。結果またたきだけでとどまった江間に、忍はそっと問いかけた。

「その、ちょっと頭を撫でても大丈夫か…?」

 左手で右の袖を押さえ、右手はまだ江間に触れていない。
 唐突といえば唐突なそれ。しかし忍の表情はあまりにも真摯で、咄嗟の反応が遅れた。
 沈黙を了承ととったのか、伸びた指が控えめに一瞬髪に触れ、改めてくしゃりと絡み。
 それでもう江間は完全に動けなくなった。
 
 白い手。ぎこちなく触れる。

 幼い頃の記憶と混ざってひどく困惑する。正直なところ、揺れている自覚のある際にはあまり触れられたくなかったが、しかし拒絶することはもっと出来なかった。
 江間が忍とハクヤに向ける感情はひどく穏やかなもので、もう少し江間が家族に対する好感情があれば、迷わず弟のようなと表現するような、そういう親愛さだったので。
 それより何より、一体どうやったら振り払える? ただただ穏やかな優しさを伝えてくる手のひらを。

「―――――、」

 ひたむきに見つめる忍が、何か言いたげに瞳を揺らす。深い紅の瞳から不安と気遣いを感じ取って、江間は鈍った頭で言葉を探す。くだらないお喋りなら先ほどまであふれんばかりに紡ぎ出せたくせ、安心させてやる言葉が何一つ浮かばない。
 さんざん迷った末に、

「……ありがとな?」

 ようやっとそれだけ伝えた。
 うん、と頷いて忍は手を下ろす。なおも何か伝えようというかのように唇が微かに開き、思いなおしたように閉じ、そしてまるで許すように眉根を下げて微笑んで、帰ろう?と江間を穏やかに促して先を歩き始めた。見事な黒髪が翻って揺れた。

        白い手に思慕を向けた。
        何もかも強引に掴み取る大きな手に焦がれた。
        あの手が欲しかった。


 ふと気がつくと、先ほどまで先頭を歩いていたハクヤが立ち止まって江間を見ていた。忍は考えごとをしているかのように、前を静かに歩いていく。
 その姿を追うこともなく江間を待つハクヤを見て、焼きもちかな、と単純に思う。からかっていることは伝わっているだろうが、ハクヤは江間がふざけて忍に絡むと必ず反応してみせたので。

「…怒らねェの?」

 茶化してニヤニヤ笑ってみせたが、ハクヤは常のように突っかかってはこなかった。細目がちな瞳をさらに細め、つっと顎を上げて短く息をつく。
 大人びた仕草におやと思った瞬間、ぽん、と手の甲で軽く胸を叩かれた。

 ―――今回は大目にみてやるよ。仕方ねーから。

 言外に容認された感覚。
 そのまま何も言わずに忍の後を追ってゆっくり歩き出す後姿を見つめ、江間は言葉を失った。
 2人が時折見せる純度の高い好意の塊は、しばしば言葉よりも雄弁に江間を圧倒した。本当に、これではどちらが年上なのかわからない。



 ふと、振り返る。
 てのひら。
 撫でる手。
 ぽん、と叩く手。


 ―――――今、何か。


 掴んだような気がしたのだが。
 一瞬の感覚はしかしすぐに霧散して、江間はゆっくり首を振って歩き出す。前に並ぶ二つの影をゆっくり追いかけ、当然のように影を混じらせながら隣に並んだ。
 2人に隣を許されていることに未だ気づけないまま。


 ゆっくりとまた、自分の中へと沈んでいく。


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